xTech for TV CM

xTech は，超高速かつシンプルな高い保守性を持つソフトウェアです．TV CM向けの応用では，主に番組間で放映されるスポット CM を，15秒単位で，どこの放映枠に当てはめるか，１か月分，数万本のCMと枠との間で，全体のバランスをとり，多種類の個別の条件を満たしつつ，ほぼ最適な割り当てをすることができます．この課題について，従来の特許等には無かった，グラフ理論のモデルを使って，汎用的かつ超高速（放映枠数に比例する計算時間）で解決するものです．

以下，従来製品，技術と比較し，実際にどれほど速いのか，どのように保守性の高さを実現しているのか，ここでは説明してまいります．

スポット CM 契約におけるマッチングの複雑さ

CM 契約においてテレビ局が抱えるタスクの一つに，「販売枠と発注 CM のマッチング」があります．特に，スポット CM は，もう一つの CM 契約方式であるタイム CM と比較し，単位枠あたりの CM 放映時間が短いため，総販売枠数が多くなります（数万件）．仮に，1 万件の販売枠，1 万件の発注 CM があった場合，最大で 1 万件 × 1 万件 = 1 億件 もの組み合わせが生じます．

さらに，販売パターンが複数あり，マッチ不可能な販売枠と発注 CM の組が存在するため，割り当ての作業は単純ではなく煩雑なものとなります．

現在，多くのテレビ局では，このタスクを毎月10 数人で数日間かけて判断・決定しています．

xTech の特徴：保守性の高さ

xTech 以外にも，この問題を解決するためのアルゴリズム，及び，そのアルゴリズムを実装したシステムが開発されていますが，それらはマッチ不可能な販売枠と発注 CM の組のマッチングを避けるために複雑な処理が行われています．実際に，比較的新しい従来のスポット CM 自動作成案ソリューション( 2021年5月に特許公開：特開2021-072577 )では，7 つもの条件の組み合わせによる場合分けがなされています．特番などの際の急な変更要請に応じてユーザー側から条件の選択や緩和をし，必要に応じて柔軟に扱うことが困難となっています．

xTech では，グラフによって発注側 CM と販売枠の組を表現することで，この点を解消し，簡潔な処理とすることで，ユーザー様自身で容易にメンテナンスができるようにしました．

ここで，「グラフ」とは「棒グラフ」「円グラフ」などの「データをまとめた図表」ではなく，「対象となるもの（頂点と呼ばれます）同士の関係の有無を線（辺と呼ばれます）の有無によって表現したもの」です．また，頂点が 2 つのグループに分けられ，辺はその間にのみ存在するグラフを 2 部グラフと呼びます．

スポット CM をグラフで表す場合，発注 CM 及び販売枠が頂点となり，発注 CM と販売枠がマッチ可能であれば，その間に辺が存在するグラフになります．各発注 CM の販売枠への割当の決定は，その発注 CM から出ている辺の先の販売枠を選択することになります．また，販売枠が重複しないように，発注 CMが求める目標(総取得)GRPを達成するような，発注 CM への割当を求めることが目的となります．

発注CMの例：　　　　　　　　　　　　　　　販売枠のイメージ(15分刻み)：

これに加えて，実際には，

発注 CM と販売枠ごとに優先度が異なる．
曜日ごとのバランスなども考えたい．

ことも考えられます．xTech では，これらにも対応しており，かつ，ユーザー様自身での調整も容易になっています．

CM ごとの優先度には，各辺に重みを与えることで対応しています．

また，xTech によって解決する問題の目的は，この重み付きのグラフにおいて，重みの合計が最大となるような割当を求めることで，優先度が考慮されない場合は，全ての辺の重みを 1 とした場合に相当します．

曜日ごとにバランスを取りたいなど，特定の枠組みに基づく割当の制限を設けたい場合には，各辺の重みを計算過程で動的に変更することで対応しています．これを実現するために，内部の処理では，優先度を表すために重みを各辺に与えましたが，この重みを決定ずみの割当によって変更する，すなわち，優先度を変更しています．これによって，例えば，作成途中の割当において，ある曜日に CM が偏っているとき，その曜日の販売枠への辺の重みを小さくし，他の曜日への割当を優先させるようにすることでバランスの調整をします．

xTech の特徴：高速な計算

従来は，最高速のアルゴリズムでも発注 CM 及び販売枠数の 3 乗に比例する時間がかかっていましたが，xTech では，マッチング可能な組の数に比例する時間で計算が可能です．これらの差を実際に比較してみます．

どちらの方法でも，発注 CM の数が 50，販売枠数が 50 の場合，1 秒で計算が終了すると仮定します．このとき，発注 CM の数が 1 万件，販売枠数が 1 万件，マッチ可能な組の数が半分とした場合，それぞれの方法で計算した場合にかかる時間は，

従来の方法：約 92 日
xTech：約 5 時間

となります．この差は件数の増加に伴って急激に拡大します．

CM の種類

まず，スポット CM とは何か，他にどのような CM があるのか，について説明します．CM は大きく分けて 2 種類あり，それぞれ，「タイム CM」「スポット CM」と呼ばれています．タイム CM とは，ひとことで言うと，番組のスポンサーとして放送される CM です．また，タイム CM では，長期の契約で，長時間の CM 枠を販売することが多いです．対して，スポット CM とは，番組に関係なく時間枠を指定して放送される CM です．スポット CM の特徴は，タイム CM と反対で，短期の契約で，短時間の CM 枠を販売することが多いです．そのため，スポット CM の方が，CM 販売枠と発注側 CM の組み合わせの数が多く，販売枠と CM をマッチさせるテレビ局側の負担が大きいことがわかります．

GRP とは

GRP ( Gross Rating Point ) とは，特定の期間中に放送されたテレビ CM の視聴率の合計，簡単に言うと，「延べ視聴率」を意味する用語です．この指標が用いられる場面として，スポット CM の契約が挙げられます．なぜ GRP がスポット CM の契約において重要視されるのか，説明していきます．

なぜ GRP を用いるのか

スポット CM の特徴を踏まえ，なぜスポット CM の契約において GRP が重要視されるのかについて説明します．販売枠の料金設定がこの理由となります．タイム CM は，番組が CM 枠を販売することから，視聴率やターゲットなどを考慮して，番組を放送するテレビ局が料金を設定します．反対に，スポット CM は，番組によらない販売枠であるため，テレビ局側が料金を設定するのではなく，料金の基準が予め設けられています．その基準に用いられる値が GRP です．実際に，以下の計算によって料金が決定します．

料金 = GRP × パーコスト

（以下で「パーコスト」の説明をします．）このように，スポット CM の契約においては，販売枠の料金設定に直接影響を与えることから，GRP が重要視されています．

パーコスト

パーコストとは 1 GRP に対するコストです．また，販売枠は以下 5 種類の販売パターンで売られ，パーコストは販売枠の種類によって異なります．ただし，各販売パターンで購入した場合に得られる枠は，指定された全ての販売枠ではなく，その販売枠のうち，テレビ局側が選ぶ任意の 1 枠となります．そのため，販売枠が少ない販売パターンの方が CM を流したい時間帯にピンポイントで CM を流せる可能性が高くなるため，パーコストが高くなります．

全日

販売枠は「朝から夜まで」です．販売枠が広いことから分かる通り，この販売枠で放送することによるターゲットは，オールターゲット，あるいは，日中は在宅している主婦となります．

ヨの字

販売枠は「平日の朝・昼・夜，土日の全日」です．ターゲットは成人男女や主婦です．

コの字

販売枠は「平日の朝・夜，土日全日」であり，ターゲットは成人男女です．

逆 L

販売枠は，「平日の夜，土日全日」，ターゲットは成人男女，若者，会社員です．

一の字

販売枠は「平日・土日の夜」で，ターゲットは若者や成人男女です．

先に説明したように，販売枠が少ない販売パターンの方が単価が高くなることから，パーコストは「全日 > ヨの字 > コの字 > 逆 L > 一の字」となっています．

まとめると，スポット CM のマッチングでは，以下を考えなければいけません．

短時間の CM 枠販売を行うため，販売枠と CM の組み合わせの数が非常に多い
販売パターンが複数あり，CM によって放送可能な枠とそうでない枠がある．

これらから，スポット CM のマッチングは手作業で行うには非常に時間がかかることがわかるかと思います．

xTech では，超高速なマッチングアルゴリズムの実装，及び，グラフによるマッチングへの制約の単純な記述をすることによって解消しています．

まとめ

スポット CM のマッチングは，

販売枠と CM の組み合わせの数が多い
販売パターンによる，マッチングへの制約が複雑

なので，発注 CMが求める目標(総取得)GRPを達成するようなマッチングを求めることが大変困難となります．

スポット CM のマッチングを求めるツールは存在しますが，それらは，人が求めるよりは速いですが時間がかかり，また，中身の処理が複雑であるためユーザー自身がマッチングの条件などを柔軟に変更することが困難です．

xTech では，これらの問題点を，超高速なアルゴリズムで，グラフによるモデル化をすることで，従来製品よりも高速に，かつ，保守性の高さを実現しました．そして，毎月10数人で2, 3日かけて作案していた作業を，結果のチェックと，恣意的な後修正に要する高々数時間・人という僅かな工数まで劇的に削減することができます。着手から完了までの「納期」も数分の１以下に短縮されます。

さらに，従来は番組内容や登場人物等の多種類の要素とスポットCMの相性を考慮に入れてマッチング（作案）を行う余裕がなかったところへ，そのような緩い制約や選好条件を多数追加しても容易に高速に総合的な相性判断が出来るようになります．工数削減，納期短縮の効果に加え、CM内容と放送枠の相性、ひいては，CMの効果たる，商品購買率の向上へと結びつけることができます！